題詠100首選歌集(その62)

     選歌集・その62


           
018:格差(237〜262)
(月原真幸) 希望的観測だけをかき集め格差社会に背を向けていく
(近藤かすみ) 格差とふ言葉使へばたちまちに片付いてゆく引き出しのなか
(春畑 茜) たとふれば格差の柵か 回文をうかべてひとり湯舟に遊ぶ
(丸山程) 一本の補助線によりつぎつぎに新しい名の格差は生まれる
023:シャツ(206〜230)
(桑原憂太郎)父親のワイシャツを夜に切り刻む母親の話を放課後に聞く
(斗南まこと)そのうちに移り香もまた消えましょう脱ぎ捨てられたシャツの一枚
(ちりピ)このシャツはあなたに似合いそうだなと必要ないこと考えている
(小林ちい) 一人きり過ごす夜には置いてったシャツを逆さに羽織って眠る
今泉洋子)帰省せし子のまた去りゆくシャツの背に白きはやかに晩夏のひかり
(泉)とりこみし男三人の白きシャツ衿の形で見分けて畳む
034:序(176〜201)
(千坂麻緒) 新訳の『方法序説』は読みやすく午後二時のカフェ猫をみている
(小林ちい) 待ちぼうけ食った仕返し本棚の秩序を少し乱して帰る
(斉藤そよ) 序章からあらためようか物語 いつか狂気にかわるやさしさ
041:越(156〜180)
(桑原憂太郎) 越年の進路指導の調査書が鞄のなかで冷え切つてをり
(やすまる)目覚めれば車窓をすぎてゆく畦畔木(はさぎ) 越後平野に朝はひろがる
055:式(127〜151)
(花夢) またひとり結婚式で美しい苗字を持った友だちが消える
(斗南まこと) つつがなく閉校式は終りたり子らの歌声耳に残して
(本田鈴雨)切り紙をひらけるやうな花式図にあれば五弁の花のあさがほ
062:坂(103〜127)
(磯野カヅオ) 浴衣着て喧騒厭ふ肩越しに遠花火散る陸橋の坂
072:瀬戸(77〜103)
(nnote)てのひらにあるものだけをいとおしむ瀬戸物市の赤い箸置き
(かりやす)音もなく瀬戸物しまふ人にある指のちからにつかまれてゐる
073:マスク(76〜100)
(流水) マスクからそっと囁く危うさでメールボックスに落とす「さよなら」
075:おまけ(76〜101)
(萱野芙蓉)標本を飾つた部屋にむらさきの揚げ羽のおまけみたいに座る
(祢莉)ごめんって素直に言えなかったからおまけに今日は雨降りだから
(五十嵐きよみ) 50音表の最後の一文字が何だかおまけみたいに見える
(ほたる)Re:だけで続くメールに添えられたおまけのような絵文字が笑う
090:長(52〜76)
(七十路ばば独り言)家事ゆえに夜は短し外つ国の旅の夜長にまたい出ゆかむ
(新田瑛) 積み上げた想いは崩れゆく秋の夜長に灯すアロマキャンドル
(髭彦)首長き吾妹のわらふわれを見てさても短き首にしあると