続・天下り考(スペース・マガジン11月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの月に1度の転載である。


[愚想管見] 続・天下り考                  西中眞二郎


 民主党政権に変わって、官僚の天下りに対する姿勢はいよいよ厳しくなるようだ。報道によれば、天下りの斡旋はもとより、そのきっかけとなる早期退職制度も廃止するという。評価する向きも多いだろうが、新しい弊害が生じて来ないかどうか疑問点も多い。
 私はいわゆる天下り官僚の一員だが、私個人にとっては、「早期退職・天下り廃止」というのは羨ましい話である。私の場合、50歳になる直前に、いわゆる退職の勧奨を受けて特殊法人の役員に転じ、その後民間企業勤務も経験した。世間一般から見れば優雅な転職に見えるのかも知れないが、本人にとっては決して楽な話ではない。知合いもいない新しい職場に転じ、経験のない仕事に携わり、場合によってはよそ者という目で見られ、場合によっては過大評価され、決して楽しい話ではない場合も多い。そういった意味では、給料やポストが下がったとしても、長年住み慣れた役所に留まる方が好ましいと考える人も多いだろう。また、役所に留まっていれば、トップが変われば当人に対する評価も変り、再び役所の中で活躍の場が与えられることも大いにあり得る話である。私の過去の体験から見る限り、「早期退職・天下り」の廃止は、多くの公務員にとってむしろ望ましいものだとすら思われる。
 しかし、それで本当に良いのだろうか。以上のことは、いわば公務員の側から見たわがままなのかも知れないという気がしないでもない。
 幹部職員が高齢者ばかりという職場では、職場の活性化は図りにくいだろう。高齢者を役職から外すのも一案だし、それを実施している企業もあるようだが、子会社への出向等を含めてのケースバイケースの判断が多いようだし、いろいろ問題点もあるようだ。
 それに、企業の場合はその企業のリスクだけで済む話だが、官庁の場合はそうは行かない。行政の円滑な運営は、国民の利害につながって来る問題である。元上司が横に坐っていたのでは、現職の幹部が仕事を進めにくい場合も生じるだろうし、それに、そもそも高齢の元幹部にふさわしい仕事があるのかどうかにも疑問がある。元幹部の窓際族が役所に大勢いるという姿が、納税者であり行政の受益者でもある国民にとって、果たして望ましい行政組織なのかどうか。
 「能力のある人なら、斡旋しなくても転職できるだろう」という見方もあるだろうが、それが果たして好ましい姿なのかどうか。高齢になった幹部が就職活動にうつつをぬかすということになれば、それは最悪のケースである。そのような官僚が多数いるとは思いたくないが、組織を離れて独力で食って行ける人が果たしてどれだけいるか。よほど優れた能力を持つ意欲的な人は別として、公務員、会社員を問わず現在の社会ではむずかしい話だろう。
三月号に「天下り考」を書いた。その趣旨は、「官僚擁護論」ではなく、納税者の立場から見た官庁組織のあるべき姿という「行政組織論」という性格のものだと思っているのだが、「天下り考」で触れなかった部分を中心に、少し補足を加えた次第だ。(スペース・マガジン11月号所収)
           
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 本稿を出稿した後、日本郵政はじめ官僚OBの登用人事が目に付いた、それらを織り込んだ続編を、スペース・マガジンの12月号に書こうかと思っている。