菅政権雑感(スペース・マガジン7月号))

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。
 書いてから1月近く経っているので、いささか話が古くなっている感じがしないでもない。明日は参議院選挙、果たしてどうなることか…。実は私自身にもやや迷いがあるところだ。


  [愚想管見] 菅政権雑感                 西中眞二郎

 菅内閣が誕生した。鳩山政権末期に比して、世論の支持は急上昇しているようだ。
 それにしても、菅さんは運の強い人だと思う。これまで数度にわたり代表を辞任したり、代表選に敗れたりしており、代表レースから脱落していても不思議でない境遇からの復活は、菅さんの力量やカリスマ性もあるのだろうが、強運の人だという印象が強い。
 末期の鳩山政権は、「政権担当能力」の欠如を如実に示し、ねじ曲げられた「政治主導」の名の下での、鳩山総理をはじめとする各閣僚のバラバラで定見のない漂流と小沢幹事長の独裁等々、見るに堪えない状況だった。副総理としてたまたま好位置に付けていた菅さんが、自然な形でトップの座になだれこんだように見えるが、考えてみれば、総理の責任は同時に副総理の責任でもあるはずで、一蓮托生で菅さんが脱落しても不思議のない状況だったとも思える。鳩山政権の中にありつつ総理とは多少の距離を置いて、うまく泥をかぶらぬように振る舞った結果、トップの座が転がり込んで来たとでも言えようか。

 菅内閣の支持が高い理由は何なのだろう。ひとつには、このところ二世・三世総理が続いたので、一市民からスタートした菅さんが新鮮に見えるということだろう。しかし、考えてみれば、それは普通の姿に戻ったというだけの話で、本来ならあえて評価するほどのことでもないような気がする。もう一つの大きな要因は、鳩山・小沢体制がさまざまな面で顰蹙を買った反動ということだろう。前任者がお粗末過ぎたお蔭で、後任者が光って見えるという面が大きいような気がする。
 閣僚の顔触れを見ると、総理と官房長官という要の位置にいる人は別として、「居抜き」に近い面々が並んでおり、それほど変り映えしたものとも思えない。確かに政策の内容や国政に対する姿勢はかなり変わりそうにも見える。しかし、消費税増税の動きや子ども手当の縮小など、民主党マニフェストから見ればかなり後退しそうなものも多い。私は元来これらのマニフェストには異論があったので、「やっとマジメでマトモな感覚に戻ったか」と前向きに評価したいのだが、マニフェストを評価した人々の目から見れば、「選挙目当てのバラマキに騙された」という印象を受ける方も多いだろう。また、普天間問題は、結局自民党政権当時の結論に舞い戻ったのみならず、かえって以前より混迷の度を深めたとも言えそうである。それやこれや考えてみると、過去の負債を引き継いだスタートであり、その「清新さ」には多かれ少なかれ疑問符が付くような気がする。
 
 他方、攻める側の自民党の姿勢も腑に落ちない。自民党が長年にわたって培って来た「政権担当能力」を強調するのなら判るが、菅政権を「左翼政権」と位置付けて攻撃しようとしている一部の言動には、大いに疑問がある。「国民政党」から離れて、固定的な「保守層」に軸足を置いたイデオロギー政党に変質しようとしているようにも見え、これまた政権復帰を期待するにはためらいがある。
 
 いずれにせよ、当面は菅政権の「政権担当能力」をじっくり拝見するしかないという、至って月並みな結論しか出て来ないというのが正直な印象だ。(スペース・マガジン7月号所収)