題詠100首選歌集(その62)

           選歌集・その62

036:正義(155〜179)
(ほきいぬ)前を行く君のお尻が丸いから正義の味方でなんかいられない
(村上きわみ) 少年に正義かすかにきざす日は消毒液の泡をさびしむ
037:奧(152〜176)
(さくら♪)陸奥のめぐる季節を生き抜きて白寿迎えし祖母を誇れり
今泉洋子) 詠むことは感ずることとけふのわれ胸の奥処(おくか)に黒薔薇いだく
(小林ちい) メールから君があふれて来るようで画面の奥を見つめてしまう
(はせがわゆづ)けだるげに奥歯をさぐる指を噛む明日はやさしいひとになりたい
039:怠(154〜178)
(やすまる)珈琲の香りを消して気怠るげに投げつけられる朝の挨拶
(星桔梗)あなたへの返信少し怠って今宵淋しく酒に溺れる
(小林ちい) あのカフェのあの窓際に座りましょう一人で過ごす怠惰な午後は
(さくら♪) こすもすが風とゆっくり歌う日は「親」をチョッピリ怠けてもいい
ひぐらしひなつ) なにも着ないままで過ごせば怠惰なる肢体は秋の白磁のうつわ
040:レンズ(153〜177)
(イノユキエ) 秋の日を魚眼レンズで撮られれば撫でまわしたくなるほどの空
今泉洋子) うつすらと春は来てをり円形の魚眼レンズの視野の中にも
(内田かおり) 傷だらけのレンズ覗いて世の中の何をか語るひりひりと雨
(一夜)サヨナラと告げて別れた泣き顔で 魚眼レンズを覗く夕暮れ
049:袋(130〜154)
(bubbles-goto)鼻先で夜に触れれば寝袋の外の世界のすべてが秋だ
(内田かおり) 真夜中に思い巡らす諸々は袋小路の天井を見る
(村上きわみ)すずやかに白をきわめる夏足袋を秋の深みに匿っている
(清次郎)痩せてゆく世界のための輪舞曲コンビニ袋が呼んだ木枯らし
(さくら♪) 「おかえり」を言うためだけにこっそりとリュックに入れたお守り袋
050:虹(128〜153)
(B子) ガレージの油だまりに浮かぶ虹などに惹かれるふりをしている
(帯一鐘信)みたことがないほど虹がきれいですドブで転んで見上げた空に
(bubbles-goto)虹色はフロアの隙間まで充ちて少し眠たい手足が踊る
今泉洋子)すつぽりと君のゐるビル包み込み半円の虹秋天にあり
(内田かおり) 君の手のワイングラスは陽を受けて向こうの壁にふと虹の立つ
(清次郎)からっぽの虹の脚もと指さして友と笑えば日脚さす山
066:雛(102〜129)
(こゆり)背を向けた雛人形まだしまわれず短い春もあなたを想う
(わだたかし)来年の雛祭りには肩並べ同じ景色に座っていたい
(振戸りく) 後ろ向きに置かれたままのお雛様 三月末の小児病棟
084:千(77〜101)
ウクレレ) 千年の恋をなぞって辿り着くやさしいきみの鎖骨のくぼみ
(お気楽堂) とんかつが食べたい時は千切りのキャベツが食べたい時かもしれぬ
(古屋賢一) ポチ袋サイズに千円札折れば除夜の鐘が鳴る薄型テレビ
(星桔梗)千代紙で折った袋に真心を入れてあなたへ届けたい朝
(五十嵐きよみ)頼りなく腕を広げているかたち気の弱い日に見る「千」の字は
(帯一鐘信)切り株に千の小鳥がおとなしくとまっててあぁ明日は月曜
087:麗(76〜100)
(富田林薫) 麗しい人へと贈るコスモスの風の丘にはやさしい揺らぎ
(古屋賢一) 綺麗より萌えを求める都市に棲むメイド服着た口裂け女
(ふうせん)コスモスが揺れているから空色は麗らかゆえに哀しくもあり
088:マニキュア(77〜101)
(飯田和馬)当然のようにマニキュア塗る君が少し遠くて恐かったこと
(希屋の浦) マニキュアを塗って繰り出す夜の街キミはわたしのどこが好きなの
(ふうせん) マニュキアを忘れた日から指先に宿るは淡き貝殻の夢
(秋月あまね) 乾くまで何もできないマニキュアは君に何かを頼む口実
(わだたかし)親指に塗ったピンクのマニキュアをじっとみているだけの週末
(香-キョウ-)爪の端 落とし残しのマニキュアが中途半端な私を責める
(五十嵐きよみ) 手袋でどうせ隠れてしまうのに丹念にマニキュアを塗りゆく
(内田かおり) マニキュアの剥がれ始めた帰り道渚に忘れたものなど思う