題詠100首選歌集(その45)

 ここ数日の紀伊半島の一部の雨量は、東京の1年分の雨量に見合うという。とんだ置き土産とともに夏が去って秋が来た。もっとも、まだまだ暑い日も続くようだが・・・。

       
            選歌集・その45

010:駆(205〜229)
(月原真幸)駆除したい ネズミ ゴキブリ スズメバチ わたしの心の中の弱虫
今泉洋子) 鍵盤を透明の手が駆けめぐりカノン奏づる夜の夢タウン
023:蜂(155〜179)
(ぱぴこ) 蜂蜜をハチミツと書き洋菓子をスイーツと呼び夢をみている
(さくら♪) 小刻みな余震が続く長い夜ホットミルクに蜂蜜落とす
(村上 喬)藤棚にクマ蜂は飛び初夏の光を散らす雲母の羽もて
(月原真幸)やわらかくとじたまぶたのうらがわが蜂蜜色にひかる午後2時
(新藤ゆゆ) 反省はたぶんしてない ほだされて蜂みつ色の午後にただよう
(藤野唯)ふたりして蜂に刺されたような夏 秘密がふえて始まる2学期
032:町(129〜154)
(新津康陽)君の部屋の窓が電車から見える。もう縁のない町が見える。
(梳田碧)目を細め人を探しぬ一度だけ来たことがある町の駅舎で
(桑原憂太郎)町長の祝辞の間うつむいて返信メール打ち続けをり
(空音) どちらからともなくやっと手を繋ぐ円山町の路地裏に来て
佐藤紀子) なつかしき紙の匂ひに満ちてをり 神保町の古書店の奥
(睡蓮。) 隣町から歩いてる恋はもう花火のようで鼻緒が痛い
陸王)なにもないぼくのふるさと その町とおなじ匂いのあなたが好きだ
034:掃(127〜151)
(砺波 湊)降り積もる金木犀の花を掃く 箒をしずかな松明にして
(萱野芙蓉) 炎天下うつろに白きこころもて落ちし木槿を掃き寄せてをり
041:さっぱり(102〜128)
(東 徹也)さっぱりと書いたそばから嘘になる僕の心は今日フクザツ系
(モヨ子)夏草に似てさっぱりとした君とシャツを購う今日の名残に
(ワンコ山田)さっぱりとした文面に見えるようフォントを選ぶ真夜中メール
(伊倉ほたる)一本のコーラ交互に飲みながらさっぱりしている関係のまま
042:至(101〜125)
(中村成志)何もせぬことの難きよ息を継ぐことの易きよ夜に至る虹
(東 徹也)夏至の夜の時を刹那に噛みしめるように朝までともに眠らず
(桑原憂太郎)母親の悪い理由を突き詰めてケース会議の議題に至る
(睡蓮。)夏至冬至夜の長さが違ってもきっとおんなじ独りの時間
054:丼(76〜102)
(龍翔)紅生姜だらけになった牛丼の中にサラリーマンのかなしみ
(五十嵐きよみ)丼と茶碗ぐらいのソプラノとテノール歌手が並んで歌う
(るいぼす)牛丼を食べてる男を観察し観察されてる吉野家の朝
(紗都子) 湯気の立つ鰻丼ふたつ用意して告げる言葉を考えている
055:虚(76〜101)
(小夜こなた) 虚しいと云えば虚しい現にて今日も貴方に口づけをする
(五十嵐きよみ)現実と虚構の壁が決壊しこの惑星がおぼれてしまう
(紗都子)刹那より虚空はずっと小さくて心音さえも聴こえなくなる
091:債(26〜51)
(津野)世の債務を果たしたものから老いてゆく午睡の後で沸かす湯を呑む
(新田瑛)青空に逃がしたはずのかなしみが負債となって降り注ぐ夜
(コバライチ*キコ)原発とふ重き負債を背負えども海は変わらず碧く清みおり
094:裂(26〜50)
(はこべ)その昔風の裂け目と書きしひと冬が似合いし立原正秋
(コバライチ*キコ)なんとなく言いたきことのありそうなチーズ裂く指の青きマニキュア