題詠2012選歌集(その12)

選歌集・その12


016:力(53〜78)
(五十嵐きよみ) 包丁に力を込める 強情な南瓜がまぶしい本音をこぼす
(七十路ばばの独り言)連れ添って50年経た今もまだ力の優劣争う夫婦
017:従(52〜76)
(猫丘ひこ乃)落ちていた軍手が指さす方向に従ってゆく星屑のまち
(ぽたぽん)従順なふりならできる簡単にどうか心を盗んでください
(湯山昌樹)地震より一年経てり サイレンの音(ね)に従いて頭(こうべ)を垂れる
029:座(26〜50)
(粉粧楼) 恩寵という名のひかり身に受けて玉座のような切り株にいる
(流川透明) でたらめな星座を作り微笑んだ少年の息白い冬空
(アンタレス)国木田の座して四顧して考える好きな言葉が病みて叶いぬ
(芳立)出勤のタクシーで読む日経を染めてながれる銀座のネオン
030:敗(27〜51)
(流川透明)失敗した方でいいんだ焦げているクッキーつまむ指先に愛
(たつかわ梨凰) 落ちてゆく陽の透きとおる花影は恋の敗者が帰りゆく路
(tafots) 春花のたふとき花を与へたい 敗北になほ慣れえぬ母へ
054:武(1〜25)
(紫苑)棲まひせしひとも聞きけむ武相荘(ぶあいさう)を包める竹の群さやぎをり
(ほたる)校歌では文武両道歌うけどそんなに強くなれない思春期
055:きっと(1〜25)
(シュンイチ) きっとまたあなたに恋をするために捨てないでいる真夏の時間
(ほたる) 何もなく穏やかな日々きっとそれが幸せなのだと思えるしあわせ
(遥) 今日よりもきっと明日は良い日だと信じられずに途方に暮れる
056:晩(1〜26)
(紫苑)日の暮れておのれに向かふ時の欲し茜の空に晩鐘わたる
(みずき) 晩春の水の感触しづくして眠りを覚ます日曜の午後
(浅草大将)石狩や樺戸が原の晩生内(おそきない)おそき春にもなほふぶきつつ
(空音)蚊帳をつる仲良き父と母がおり優しい晩の「早く寝なさい」
(しま)寂しさが波打ち際で心地良く晩夏の風となる日暮れです
(不孤不思議) 人知れず恋に悩める晩節の男のありて短歌(うた)詠む夜更け
057:紐(1〜25)
(夏実麦太朗) ちょうど良い具合に靴紐ゆるめたら朝の光はあたたかかった
(ほたる) 肩紐がいつもはずれてしまうから肩肘張って生きてゆきます
(みずき)帯紐を結ぶ指より白い冬 夕べ雪降る石段を踏む
060:プレゼント(1〜25)
(みずき) プレゼント姉と見せ合ふ縁側に亡母(はは)の幻影見しはあの夏
(不孤不思議) その鉢の花綺麗ねと誉められて 見知らぬ人にプレゼントする
065:酢(1〜25)
(横雲)酢漿草(かたばみ)の触るれば爆(は)ずる実の如く君が言葉に涙の散りぬ
(シュンイチ)理科室の酢酸カーミン からまったぼくらを夏に染めていく午後
(紫苑)青き香をはなつ酢橘(すだち)を掌に包めばひと日華やぎにけり