題詠2012選歌集(その33)

今日は8月15日。年齢のせいか、感慨が少し薄れて来たような気がしないでもない。お天気のせいかも知れないが、蝉の声も今年は少ないような気がする。


          選歌集・その33

010:カード(157〜181)
(たえなかすず)バースディカードの文字はおぼろげでつれないきみの横顔に似る
(黒崎聡美)うごかない空気のなかでスタンプが増えないままのカードを捨てる
011:揃(152〜176)
(田中ましろルービックキューブ揃えてしまったら世界が終りそうな夕焼け
(嶋田さくらこ)手を引かれくぐった鳥居 夕暮れに笑えば揺れる不揃いな影
(るいぼす)お揃いのパフィーのシャツとジーンズが似合う二人で買い物に行く
018:希(126〜151)
(ゆり・くま) 暗闇に蛍がひかるぼんやりと 希望みたいな色をしている
(フユ)希少価値なんですなんて言われたら この前髪を揃えられない
024:玩(103〜127)
(朱李) 星屑を集めて詰めた玩具箱銀河の夜に空を走るか
佐藤紀子)バネ入りの玩具のやうなリスの仔が細き身体で草野を撥ねる
039:蹴(76〜100)
佐藤紀子)気遣へる母の言葉を一蹴し気軽に町を出てしまひたり
(砂乃)蹴りあげた靴の先からこぼれてく砂粒ほどの僕の後悔
056:晩(52〜76)
(真桜)今晩も夢で貴方に逢いに行く切符や遠慮なんて要らない
(七十路ばばの独り言)晩秋の気配色濃き野に立てばミレーの晩鐘耳奥に鳴る
(佐藤紀子)晩年の母の〈そっくりさん〉のやうショウウインドウに写る私は
(小夜こなた)週末の晩ご飯だけ食卓をピンクのランチョンマットで飾る
(nobu)晩餐に着てゆく服が見当たらず かぼちゃの馬車もなお見当たらず
057:紐(51〜75)
(梅田啓子)へその緒にはじまる紐帯そののちは血縁、地縁に糸がくいこむ
(山本左足)靴紐を結び直してもう一度走り出すため睨む青空
(柳めぐみ)「こっそりと蒟蒻畑は食べるのよ」お弁当の紐ギュギュッと結ぶ
(湯山昌樹)思い残る雑誌の類(たぐい)を紐でしばり何回目かの区切りをつける
058:涙(51〜75)
(梅田啓子) 生きるのがつらき夕べは血涙という語を知りてなぐさみとする
(牛込太郎)海人(うみんちゅ)が一人であいづち打ちながら『涙そうそう』に聴き入っている
(五十嵐きよみ)結ぼれてほどけない糸できるだけ「涙」という語は使いたくない
059:貝(51〜75)
(小夜こなた)放課後の砂場で見つけた貝殻をビンに詰めたら海がきこえた
(五十嵐きよみ)つい初句を加えたくなるコクトーの「私の耳は貝の殻」の詩に
(nobu)貝殻に秘めし思ひ出たどりつつ一人彷徨ふ(さまよう)9月の海辺
(なまにく)もう何も守るものなど無くなった貝殻ざらり撫でていく波
077:転(26〜50)
(はこべ)転がした雪だるまの跡かすかにて新雪つもりときがかさなる
(ゆこ)閉園の遊園地には音のない思い出たちが転がっている