題詠100首選歌集(その48)

 秋も深まり、題詠100首も締切りまであと20日となった。去年の記録を見たら、11月10日付けで、「選歌集その58」となっている。それに較べると大分遅れをとっているようで、これからのランナーの方々の御健走に期待するしかない。

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>
 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して8年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


           選歌集・その48


020:劇(154〜179)
(村田馨)山なみに雪解け残り信夫橋をゆるりと渡る喜劇一座が
(青山みのり)月光に青を深める猫たちの影ひそやかな砂場劇場
028:脂(126〜150)
(桑原憂太郎)脂汗浮かべて納期の遅れゆく理由を言ふのもスキルのひとつ
(紗都子)音たててとろけてしまう牛脂にもあわく獣の気配はあって
(青山みのり) ぶつかれば絡む視線をはずしつつ牛脂とろりと溶けてゆきたり
029:座(126〜151)
(はぼき)亡き祖父の手作り座椅子今もなお定位置にありふるさとの家
(鮎美)東京より帰り来ればリビングに老父眠りをり座りしままに
(紗都子)教室にならぶ座席はそれぞれの子の体重を支えてきしむ
(さとうはな)物語の内と外とに照らされてなお華々し春のオペラ座
047:ふるさと(102〜126)
(はぼき)ただいまと靴を脱ぐ場所もはやなくチェックインするふるさとの夜
(桑原憂太郎)こんな空あんな風景万人のステレオタイプのふるさとを売る
(紗都子)すりきれた絵本の中のふるさとはにじむばかりの水彩の色
(龍翔)住む気にはとてもなれないこの街もきっと誰かのふるさとだろう
049:敷(101〜126)
(三沢左右)天板に敷いたクロスの縁取りのレース模様も今宵甘やか
(黒崎聡美)夫婦とは家族だろうか芝はらにレジャーシートをていねいに敷く
050:活(101〜125)
(星桔梗)穏やかな君の声音が確実に私の生きる活力となる
今泉洋子)就職活動(しうかつ)をする子の靴底すり減りて曖昧に梅雨の明けてゆく日々
071:籠(76〜101)
(晶)藤籠の 歪み懐かし幼子の 入りて遊びし夏の残像
(紗都子)自転車のからっぽの籠がうれしくて日曜日には遠くまで行く
今泉洋子)若き日に訪ひし馬籠の映像に掃除する手を止めて見詰める
(津野)曖昧な肯定などは悟られず籠目格子に秋を潜らす
073:庫(76〜100)
佐藤紀子)今晩の空気を四角に詰め込みて最終電車が車庫に入りゆく
(穂ノ木芽央)猫に似た少女のトラウマ引きずりて角川文庫の黒き背表紙
(紗都子)放課後の開架書庫にて語り合うささやく声を床に落として
(村田馨)夕照に煉瓦の脚が融けいりぬ武庫川鉄橋電車の響き
091:締(51〜75)
(nobu)愛されることの幸せかみ締めてコンパクトの蓋ぱちんと閉める
(梅田啓子)あわい色に上書きしゆくわが記憶さいごは紺できりりと締める
093:条件(51〜75)
(はぼき)待ち人をやきもきさせて飛行機は条件付きの出発となる
(砂乃)「ひとつだけ約束して」と振り向いて母はいくつも条件増やす