題詠100首選歌集(その24)

         選歌集・その24


005:叫(126〜150)
(葉月きらら)あの人に逢えない時間刻むよう叫びにも似た剥げたペディキュア
008:瞬(105〜129)
(桔梗)真夜中にまぶたを閉じる瞬間は夢と現のあわいを生きる
(kei)知らぬ人同士が不意に話し出す夕暮れ前の青い瞬間
(今泉洋子)水満ちし初生り西瓜抱(かか)ふとき一瞬想ふ赤子の重さ
(粉粧楼)失ったはずの翅だけ震わせる夜の甘さにとける瞬間
018:闘(76〜100)
(音波)闘魂は燃やせるほうのゴミ箱へ燃えない愛は金曜日です
035: 後悔(51〜75)
(あわい)胸に咲く花一輪を手折った日後悔しないと決めたはずの日
(秋月あまね)後悔を持ち出すほどのこともなく なんだ小雨に濡れるぐらいで
(しほ)田舎に来たことを後悔してるでせういくたびか母はわれに聞きたり
036: 少(51〜75)
(あわい)告げられた言葉いくつも嘘にして置き去りになる少女の日々よ
(鈴木麦太朗)缶コーヒーぐいと一気に飲み干して少し遅れてくる南風
(流川透明)少年のあなたはどんな恋をした繋がれた手の躊躇いのなさ
(津野桂)少量の劣情さえも隠せずに指を滑らすメールを送る
038:イエス(51〜75)
(千束)あまやかに丸くかたどる彫刻の果物に似たイエスの踝
(鳥羽省三)荒野往くイエスの如き眼差しで打者のイチロー睨む岩隈
(じゃこ)イエスともノーとも取れる色合いでマークシートを塗りつぶしてる
039:銃(51〜75)
(鈴木麦太朗)銃口に息吹きかけて缶コーヒーひとくち飲めば午睡は覚める
(五十嵐きよみ)銃よりも楽器を選びたかったかもしれない少年兵の指先
040:誇(51〜75)
(鳥羽省三) 自が功を誇示する如く声荒げ財務大臣失言糊塗す
(津野桂)身を削る恋などひとつもなかったし誇らしいのは小さな乳房
042:若(51〜75)
(光本博)「若干」といふ前置きがこのところ若干あふれすぎてをります
(未来るちる)無秩序な生活送る毎日は若さだったと今振り返る
(千束)「杜若咲くころにまた会いましょう」褪せた丸文字こぼれた詩集
佐藤紀子)若き日にはなじめずにゐし紫が七十過ぎてしつくりと来る
070:柿(26〜50)
(橋田 蕗)柿若葉てりかがやけば目前の銀泥眩し有明の海
(廣珍堂)人麻呂も 柿を食みしか 三輪山の ふもとに立てば 空ぞ青なる
(千束)もう二度とお目にかからぬことでしょう。つやつやと照る柿の肌剥く
(風橋平)大皿のこれまた白が並ぶ夏 通り向うの柿右衛門