題詠100首選歌集(その20)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して10年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年勝手な「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。
          
        
          選歌集・その20


002:飲(115〜139)
(如月綾)飲み込んだ言葉の続きを判っててそれでも気付かぬ振りを続ける
(莢)熱帯の月ごと夜を飲み下す悲しい喉の動きを思う
(鮎美)レギュラーのための麦茶を作るべく水飲み場にてひとり夏の日
(山本左足)飲み干したラムネの瓶は透明でそこだけずっと夏のまんまだ
(紫月雲)一言を飲み込めばその一言に押しつぶされし我が更年期
(髯仙人)飲み込んだ 数多ことばを 思ひ出し 君の写真を 見てゐる夕べ
(ネコノカナエ)音を飲み山の端(は)を飲み陽を飲んで校舎を飲んで夕立がくる
(まる)庭のバケツ傾ぐを見れば真夏日に水を飲み来る猫の居るらし
004:瓶(102〜126)
(さくら♪)ザックリと刺さった言葉瓶に詰め蹴飛ばしてやる! 月はどっちだ
(お気楽堂)花瓶から花はあふれておさまりの悪いものから捨てられていく
(砂乃)忘れずにお守り代わりに持ち歩く茶色い小瓶の『正露丸糖衣』
007:快(92〜116)
(とおと)雨の夜の快楽(けらく)の夢は果てなくて木陰に黒く熟れる鰐梨
(お気楽堂)少しずつ思考回路が擦り切れる帰宅ラッシュの青梅特快
(豆田麦)手を重ね快気祝いを選ぼうね 骨ばる甲に嘘を重ねる
(佐野北斗)安曇野に行くはずだった 三人で快気祝いをやるはずだった
(ネコノカナエ)いくつものいつもの駅をとばしゆく快速はまゆりもうすぐ海だ
008:原(92〜116)
(莢)ギンヤンマ無音をよぎり原色の夏は記憶の底へとかえる
009:いずれ(87〜111)
(紙屑)いずれにも該当しないわたくしの上にも夏の風は渦巻く
(ハナ象)そのうちねまたねいずれねそのつぎね柔らかすぎる拒否を見送る
(白亜)きょう胸にやどりはじめた哀しみはいずれ奪われる釦のひとつ
057:県(26〜50)
(只野ハル)県境の峠を越えて君の住む街へバイクを飛ばしてる夢
(中西なおみ)県境またいで暮らす山彦が代々つなぐ訛り読本
(五十嵐きよみ)そういえば県と名のつくところには一度も住んでいないと気づく
(槐)身に響く田県神社の男茎の太きに頬を寄せて潤めり
058:惨(26〜50) 
(お気楽堂)惨めさを誰も見咎めないでくれサンダル提げて国道をゆく
(中西なおみ)惨めそうなコンビニ袋吹き上げて風船になる夢みせる風
(湯山昌樹)八月になると悲惨な映像が流れる あれから六十九年
(谷口みなま)惨めさに見合うオトコか?スカートの裾をはらって飛び石わたる
059:畑(26〜50)
(希屋の浦)畑にはたわわに実る果実ありもいだ瞬間夏の音する
(廣珍堂)海に沿ふ段々畑に風あがり農夫の腰はゆつくりと伸ぶ.
(佐野北斗)「あのこと」の前と後とで変わらずに西瓜は育つ西瓜畑に
060:懲(26〜50)
(はぼき)あと一度もう一度だけやってみる懲りないヤツと言われてもなお
(白亜)絵本のなかで懲らしめられている鬼をきっと私は見のがしてきた
(椋)今日もまた懲りない君の悪戯に 怒る気もなく笑顔を返す
061:倉(26〜50)
(はぼき)世の中の景気の波を乗り越えたレンガ造りの倉庫が並ぶ
(中西なおみ)蟷螂のトムがゆっくり鎌を振る倉庫の屋根に浮かぶ満月
(コバライチ*キコ)名画観て余韻味わふ喫茶店エル・グレコあり倉敷の小径
(髯仙人) 兄のあと 居場所を作る 倉2階 そういう時期が 男にはある
(佐野北斗)霧雨の濡らす石道ふたりして無言で歩く秋の鎌倉