地方創生の阻害要因(スペース・マガジン11月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。



[愚想管見] 地方創生の阻害要因          西中眞二郎

 
我が国を巡る重要課題はいろいろあるが、長期的視点から見た最大の構造的問題は、少子高齢化と人口減少だろう。そして、それと裏表をなすのが、地方の疲弊だと思う。政府が「地方創生」を重点的な課題として取り上げようとしているのは、遅きに失したという気がしないでもないが、まずは時宜に適ったものと言えるだろう。
 これまでに何度か本誌でもご披露した平成22年度国勢調査の結果を都道府県別に見ると、最も増加率が高かったのは東京都で4.7%の増、以下増加したのは神奈川県、千葉県、沖縄県滋賀県、愛知県、埼玉県、大阪府、福岡県の9都府県のみであり、前回調査の15都府県を大きく下回っている。東京都、神奈川県は、前回に引き続き1位、2位を占めている。また、地方別の合計を見ると、これまで増加していた中部、近畿の両地方も減少に転じ、増加した地方は関東地方だけになった。
 また、同年10月1日現在の1,728市町村の単位で、全国の人口減少市町村の割合を見て行くと、平成2年から7年にかけて52.7%、7年から12年にかけて62.3%、12年から17年にかけて69・6%であったのに対し、22年調査では実に76.4%の市町村の人口が減少している。特に、北海道、東北、四国の人口減少市町村の割合は、90%を超えている。
 これらの数字が示すように、首都圏への一極集中と、地方の人口減少は、4年前の国勢調査でも既に明らかになっている。この傾向に歯止めを掛けることは、もとより容易なことではないだろう。地方復権のいくつかの成功例が指摘されてはいるものの、それが多くの地域に通用する一般性があるものとは限らないし、さまざまなアイディアや実績はあるにせよ、それが全国的な解決策になるとは考えにくいところもある。
 逆の面で一つ指摘しておきたいことは、膨大な費用を投じて進められようとしている東京オリンピックの開催とリニア新幹線の建設が、その地方創生の阻害要因にならないかと懸念されることだ。
 東京オリンピックは、首都圏への投資と人口の一極集中をいよいよ加速させて行く契機になり兼ねないし、当面の緊急課題である東北復興との関連で見ても、人材、資金その他さまざまな資源の面でマイナス要因になることが懸念される。
 リニア新幹線は、環境破壊などの懸念もさることながら、なぜ東京と大阪を1時間程度で結ぶ必要があるのか。これからの人口減少傾向を考えたとき、輸送力の増大の必要性は、むしろ減少して来るのではないか。また、首都圏と地方との交通時間の短縮は、地方の活力の増大より、むしろ首都圏の吸引力の増大をもたらして地方の疲弊に繋がる要素の方が大きいのではないか。狭い日本・そんなに急いでどこへ行く―――ひと昔前の交通安全の標語だが、リニア新幹線にも通じるような気がしてならないのだ。
 もちろん、いずれも別の視点もあり得るところだろうが、長期的課題の阻害要因になるようなプロジェクトを巨費を投じて実行するという愚かな選択にならないよう、プラスのアイディアと並んで、マイナス要因の除去についても、掘り下げて検討して欲しいものだ。(スペース・マガジン11月号所収)