題詠100首選歌集(その34&35)

 いよいよ最終日。さすがにかなりペースが上がっている。今日もう1組くらいは選歌集ができそうだが、あるいはくたびれて明日に回すかも知れない。→→夜になって結局もう1組まとまったので、「その35」として、載せることにした。どうせ今日中に完成させることはむりだから、残りは、明日か明後日に回すことにしたい。


          選歌集・その34


031:栗(76〜102)
(ゆき)こんなにも思ひ通りにならぬ日も栗のケーキは栗の味する
(青山みのり)さみどりの四つ葉をさがす面持ちで栗きんとんの箱を開けおり
(三沢左右)ベンチには黒き犬つながれてをり新しき靴もて栗を踏む
(泳二) 二人にはまだ秋の夜は長すぎてひたすら栗を剥く人になる
078:棚(52〜80)
(はぜ子)放課後の本棚の陰ぼくたちは白い表紙の冒険に出る
(蓮野 唯)少しずつ埋められていく本棚のアルバムの数微笑みの数
(永乃ゆち)役に立つことといったら上段の棚に手が届くそれだけの人
(ワンコ山田)網棚の古いかばんを確かめる今日買ったのを膝にのっけて
(小倉るい)あの時に渡せなかった赤い箱本棚の隅に今も残れる
(三船真智子)つり革と網棚だけが知っている二人の磁場の微細な変化
(たえなかすず)ややゆるい指輪を棚にもどすとき遠い真夏はいつも雨降り
(大島幸子)ひび割れた鏡のようにきらきらと棚田の夕日は小分けにされて
081:網(51〜78)
(ゆき)網タイツ穿いて出社のお局に今夜の予定をだれも聞けない
(たえなかすず)ひと月に二度会うことをゆるされる秋のタイツの網目が広い
083:射(51〜78)
(椋)曲水に紅葉静かに反射する 城南宮の花の庭行く
084:皇(51〜77)
(ゆき)ひんやりと石榴もぎ取るをとめごのかひな古代の皇女(ひめみこ)めきて
085:遥(52〜78)
(miki) 遥かなる故郷(ふるさと)偲ぶ宅急便 梨の重さのジワリと沁みる
(RIN)遙か遠く別れしものを噛み締めてシチューの中の馬鈴薯崩す
087:故意(51〜79)
(睡蓮。)棚の本 故意に落として気をひいて染めたばかりの髪かき上げる
(蓮野 唯)故意にしろ故意でなくても恋だから意地悪もする優しくもする
(三船真智子)偶然と故意の境界気づかれず何も始まらない物語
(RIN)バランスが崩れ始める肩越しに未必の故意の溜息ひとつ
088:七(51〜77)
(海)千歳飴片手に澄まし顔をして天使に化けた七五三写真
(とおと) おろかなるオリオン遠く見霽かす七姉妹らのくすくす笑ひ
089:煽(51〜76)
(ほし)ダンプカーに煽られ端に停車せり朱夏のハザードスイッチを押す
(小倉るい)ただよえる外国タバコの匂いさえ煽りはしない冬至の昼間
(大島幸子)突風に胸の熾火は煽られて二段ベッドの梯子を上る
(とおと)はかなげなフリルは風に煽られて冬蝶の身を離れむばかり
090:布(51〜80)
(小倉るい)赤い布を結ぶ横顔あたたかな風を呼び込む卯子酉神社
(miki)エプロンの布目くっきり引き出しに後姿の亡母(はは)を偲びぬ
(椋)布一枚君との距離に目を閉じて 温もっていく京都の一夜(ひとよ)
(たえなかすず)ひと冬の恋の名残となるだろうひたすらそよぐスカートの布
(大島幸子)シャツの布越しに感じる体温を背中合わせに分けあう日暮れ




            

          選歌集・その35


017:サービス(104〜128)
(柏井なつ) 見え透いたリップサービス真に受けた振りしてあげるこれぞサービス
(小倉るい) 青白く続く川の音静かさのサービス少し効きすぎる午後
033:連絡(76〜100)
(こと葉)片隅にそっと残した走り書き明日の我への連絡とする
(青山みのり) 唐突に連絡網のめぐりきて金木犀は秋の担当
035:因(76〜100)
(睡蓮。) 敗因もわからないまま時過ぎて若さのせいにする安直さ
(小倉るい)赤い花を君が嫌いな原因を突然知った夏の終わりに
036:ふわり(77〜101)
(柏井なつ)春色のスカートふわり選ばれてクローゼットのデニムの嫉妬
038:華(76〜100)
(三船真智子) 寄り添って薄い体温分け合えば華奢な体にともる火がある
(青山みのり)優劣をみきわめられぬ僕を捨て昇華してゆくつごもりの雲
(小倉るい) 猫のいる中華そば屋のもっきりに学生群れる土曜日の夜
(粉粧楼)飲み込んだ星が孵化する響き抱く夜を越えれば氷華咲く朝
039:鮭(76〜100)
(三船真智子) 金太郎飴の日常それもあり鮭をまとめて焼く日曜日
(御糸さち)紅くない鮭を知らずに紅鮭を手に取る鮮魚コーナーの隅
(三沢左右)漁り男の膝撃つ水の流れより鮭翻り葉叢揺らせり
(小倉るい) 母の手の味の匂える塩鮭を二切れ焼いて電話をかける
(新藤ゆゆ) ジェラートジュレも似合わず帰り道鮭おにぎりをふたくちで食む
091:覧(51〜76)
(たえなかすず)こんなにもあかるくゆっくり回るから別れが言えずにいる観覧車
092:勝手(51〜76)
(椋) 宿帳の名前の前に君の姓 勝手に書いて首をすくめる
(三船真智子) 妄想の中で勝手にしゃべらせて実は声さえ知らないでいた
093:印(51〜78)
(ゆき)窓ガラス叩く雨脚強まれば街はいよいよ印象派めく
(睡蓮。)大銀杏散り敷く黄泉(よみ)や亡き人の印象薄くなりゆく晩秋
(三船真智子)印画紙に日光写真青く浮き今言わないといけない言葉
094:雇(51〜75)
(牧童) 不確かな雇用のままに年を越す 骨折れた傘雑踏の雨
(小倉るい)大根の葉を刻む音響かせる雇用期間の残り迫りて