題詠100首選歌集・その2

      選歌集・その2(2月8日〜11日)

005:移
(松本直哉)園丁のもはや歌はぬ薔薇園に移植鏝ひとつ春の陽を浴ぶ
008:製
(八慧)寄り添って二人座れば春の日にゆるゆる軋む木製の椅子
010:容
(はこべ)楽しみを容赦ない雨に邪魔されて独り見ているテレビで『俊寛
011;平
兵站戦線)時にして風に吹かれてゐたいものこの平らぎの中のコスモス
(はこべ)兼平は粟津原にて果てたるを能は謡いおり琵琶湖に佇ちて
013;伏
兵站戦線)みづからは伏兵なれば草となる蒼氓動く月黒き夜
(はこべ)伏し目なる表情うつくし小面でたおやかに舞う能『楊貴妃』を
018:荷
(月丘 ナイル)換気扇つけて煙草をすう君の横顔に似た薄荷の匂い
兵站戦線)手土産に昔と同じ薄荷飴酒との縁(えにし)捨てて八年
019:幅
(馬場浩通) 慎重に幅を読みつつすれ違ふ旧国道にバスが来たりて
020:含
(月丘 ナイル)少しずつ空が広がる心地して春の気配を含むスカート
021:ハート
(京子)知りそめし乙女心のはじらいひをハートの型にくり抜きし日も
022:御
(京子)風呂敷を畳む指先しなやかに夏を届ける御中元です
023:肘
(月丘 ナイル)私だけが私にやさしい0時すぎ保湿クリームを肘に塗り込む
024:田舎
(akari)「だからこうなったんだね」と君は言う初めて我の田舎に来た日
(京子)稜線を田舎の山になぞりつつ君はポツリと「母に会いたい」
025:膨
(ひじり純子)少しずつつぼみ膨らむ樹の枝の中で作られゆく桜色
(月丘 ナイル)少しずつ膨らんでゆくパン生地の中で私は夢をみている
026:向
(ひじり純子)必ずしも同じ方向見ていない項垂れてるのもあって向日葵
(akari)パソコンの画面にいつも阻まれて向かいに座る君が見えない
027:どうして
(ひじり純子)どうしても諦められぬ恋ひとつ赤いリボンで結んで捨てる
029:公
(月丘 ナイル)いつまでも待つとメールをした後はハチ公の目して君を待ちおり
031:防
(ひじり純子)円卓に次々運ばれる料理を防風林のように囲みぬ
033:イスラム
(ひじり純子)神戸の町イスラム寺院を行き過ぎて生田神社に出会う道のり
034:召
(ひじり純子)お召し物はお脱ぎください良いにおいのクリームもしっかり塗ってください
038:宇
(ひじり純子)幾回もぬばたまの夜繰り返し宇宙の果てに星座のできる
041:ものさし
(akari)ものさしに わたしの名前 亡き母の美しい文字 話がしたい
044:欺
(門哉彗遥)いくたびも繰り返すのか同じよな過怠おのれを欺くばかり
046:才
(門哉彗遥)もうあとは抱きあうための時間しか残っていない五十六才
047:軍
(ひじり純子)右手だけ等間隔に落ちている軍手はずっと左手を待つ
050:凸
(ひじり純子)凸凹のジャガイモを剥くソラニンのことをちょっぴり考えながら
053:波
(門哉彗遥)地下鉄をたった四駅乗るだけで文化が変わる難波と梅田