題詠100首選歌集(その4)

      選歌集・その4(2・19〜25)

001:地
(睡蓮。)角曲がり地面に伸びた君の影冬の朝日に背中丸める
003:超
(五十嵐 仁美)百年を超えて私に辿り着きし小さな古布に誰かの匂い
005:移
(佐藤和司)声をかけ呼吸を合わせ組みあいて車いすへと身体を移す
010:容
(五十嵐きよみ)美容室の椅子に座って二か月に一度だけ読む「オレンジページ
(中西なおみ)容れものの記憶なくした空き缶が波打ちぎわで眠る冬の夜
013:伏
橋本和子)五百羅漢極彩色で並び立つ伏し目がちなる母に似た顔
016:察
(松本直哉)頬紅く染めて無口になれる子のからだ寄せ来ぬ診察待つ間
(八慧)水色の診察室のディスプレー水草分けて鱗がひかる
017:誤解
(松本直哉)生は比喩 愛とは誤解 うぐひすのさへづりやまぬ花野の夕べ
(八慧)狂乱の時代の錯誤解きほぐす正気が戻る朝はもうない
018: 荷
(松本直哉)荷ほどきのいまだをはらぬせまき閨からだよせあひ初夜をねむりき
(八慧)ほんのりと薄荷が香り若い日の口づけの味思い出す朝
019:幅
(松本直哉)をさなごの歩幅にあはせあゆみつつともにひろへり黄の葉赤の葉
021:ハート
(新井 蜜)夷狄てふ言葉ぞありし涼やかなハートのジャックの眼はうすみどり
022:御
(はこべ)花頭巾白さかがやく三人の雅びの舞台能『大原御幸』
(新井 蜜)六月の紺のみづうみ 風のなか御者は葦毛の馬を鞭打つ
023:肘
(はこべ)肩肘をはらずうっとり時ながれ能『松風』を万三郎が
(松本直哉)六本の肘やはらかにをりまげて阿修羅立像夕闇のなか
026:向
(藤野 恵子)「向こう向いていてとさっきもいったでしょ!」怒られたくて何度でも向く
027:どうして
(木村美映)だうしても解けぬ予想のいくつかを整数論の教科書に見き
(田島映子)「どうして」も後ろに並ぶ「あいして」も最近どうしてイワナイノカナ
028:脈
(はこべ)水脈をひく白鳥の舞い春の午後能『羽衣』に思いかさなる
040:咳
(京子)くしゃみとも咳ともつかぬブチ猫の音符を君は書き添えており
044:欺
(京子)黒猫のひっかき傷よ欺きし恋にも似たり春の夕暮れ
045:フィギュア
(京子)氷上の『パリジャン・ウォークウェイ』青く流れ麗しフィギュアとなりぬ
050:凸
(京子)凸凹の道で小石に目をやれば小さき花の菫なる青
054:暴
(京子)喜々として暴れまくれば猫たちが記事にまみれる古い新聞
070:凝
(月丘 ナイル)深呼吸ついでに空のはしっこの一番星に瞳を凝らす
071:尻
(月丘 ナイル)嘘をつく時に眉尻が動くのを知っているからあなたを見ない
073:なるほど
(ひじり純子) 物分りよい振りしてる若者は大人になるほどわがままになる
074:弦
(月丘 ナイル)春の香がバルコニーまで立ち込めて上弦の月もワインに酔えり
078:旗
(月丘 ナイル)もう二度と訪れぬ幸せとしておこさまランチに立つ万国旗
080:大根
(月丘 ナイル)まざまざと己の闇を見つめおり例えば大根すりおろす時
081:臍
(ひじり純子)因縁は臍の緒により繋がって流れるように親子となりぬ
(月丘 ナイル)あんぱんの臍に桜が乗るころはきっとあなたはここにはいない
082:棺
(月丘 ナイル)山盛りの花が次々吸い込まれ棺の中は意外と広い
084:剃
(月丘 ナイル)髭を剃る君と産毛を剃る我をまんまるい目で見つめてる猫
086:坊
(akari)赤ん坊ひとり生き抜く術はなく愛らしさのみ贈られており
088:宿
(akari)貧乏性 生涯続くものらしく宿は決まってビジネスホテル