題詠100首選歌集(その14)

        選歌集・その14(9・6〜10・2)
002:欠
(牧童)欠けたのは欲望なのか夢なのか乙女色した冷えた想い出
005:移
(小川窓子)田を渡る稲のかおりが移りゆくイナゴがはねて夏が飛び散る
(東馬想)長距離を移動するのが目的と化して青春18キップ
008:製
(ひなたひとみ)カラカラと製氷される深夜二時トイレに立てば猫の目光る
009:たまたま
(ひなたひとみ)たまたまが毎度になって視線合う恋する予感の朝の通勤
010:容
(ひなたひとみ)君の言う許容範囲がわからずに見えない壁に押されてばかり
(容子)体内で熟した金魚蓄えて 月一流す 少女の容器
012:卑
(RussianBlue)卑屈なる心の内に棲みついた悪魔の花に蜜を与える
013:伏
(ひなたひとみ)伏せ縫いのシャツの袖口たくしあげ額ににじむ汗を拭きおり
018:荷
(RussianBlue)草原を知らない馬が引いてゆく林檎が香る旅の荷馬車を
043:麦
(睡蓮。)冷蔵庫 運動会まで夏仕様 居並ぶ麦茶緑茶のボトル
048:事情
(睡蓮。)男には説明できない言い訳を "女の事情" とごまかす手口
052:せんべい
(小川窓子)せんべいの空洞あれば小さくもああ浅草の空気を吸える
054:暴
(小川窓子)土砂降りで暴風の中トラ猫は独りを選び背を向け歩む
056:蓄
(廣珍堂)木製の蓄音機には灯がともり78回転に加速す
(風花)目に見えぬ蓄積されしセシウムの事ふと思う凪の浜辺で
058:囚
橋本和子)囚人の上皇を待つ青い馬いななきそうな天皇寺
060:菊
橋本和子)踏まれやすいでも踏まれない野菊揺れ遍路道でのかすかな吐息
(風花)うなだれて晩夏のひまわり見た野辺に優しく伸びする菊花の黄色
063:律
(廣珍堂)廃校に調律ずれたピアノあり今日も鳴らずに鳥の歌聞く
064:あんな
(由子)時計草の不思議はわたし あんな日をひとりで耐えて忘れては咲く
066:瓦
(廣珍堂)夜明け前瓦のうえに寝転がりふたり無言で待つ流星雨
071:尻
(廣珍堂)カナヘビの尻尾の長さ増す刹那いよよ陽射しはしづけさ増せり
077:フリー
(廣珍堂)青春の記憶つくりしフリージャズ大音量の店はもうない
079:釈
(五十嵐きよみ)解釈でねじ曲げられた九条を自分の声で読み上げてみる
081:臍
(五十嵐きよみ)「薔薇」よりもずっと少ないこれまでに「臍」と漢字で書いた回数
082:棺
(五十嵐きよみ)よりそって眠ってみたい花々に埋もれてふたり用の棺で
083:笠
(五十嵐きよみ)小説の中の寡黙な老人に笠智衆をつい当てはめており
087:監
(muku)懐かしい人生一度の頬ビンタ 鬼監督も今年喜寿とか